勉強しなさい!

よく聞く言葉

わかります、わかります

学校に通っている子供を育てている親で、子供に「勉強しなさい」と言ったことがない人ってどのくらいいるのでしょう?

おそらく、ほとんどの親が子供に「勉強しなさい」といったことがあると思います。

これはとてもよくわかります。

だって、そのまま黙っていると、動画を見たり、ゲームをしたり、本を読んだりで、一向に勉強しようという姿勢が見えません。さすがに試験間際になると多少自分から勉強しますが、中には「試験直前になるといきなり部屋の片づけや模様替えを始める」などという子もいます。

勉強しないで後で苦労するのは子供たち自身です。大人はそれが良くわかっているので「勉強しなさい」とついうるさく言ってしまいます。でも、それで机に向かっても、ノートに落書きをしていたり、何か勉強とは関係のないことをしているだけ、などというのはよくある光景です。


子供たちの疑問

子供には子供の考えがあります。そして思うのです。

小学校に入ってから、毎日学校に行き、当たり前のように毎日勉強させられているけど、なんでこんなことをしないといけないのかな?

もっと楽しいことがたくさんあるのに、どうして楽しいことをあきらめて、つまらない勉強をしないといけないのかな?

そもそもどうして子供だけ勉強しないといけないのかな?

などなどです。こうした疑問に親たちは「将来のため」とか「勉強していないとあとで困るから」とか色々な答えで答えます。でも、それで納得して、

そうか!それなら勉強を一生懸命しよう!

と、心の底から思う子は残念ながら多分いません。


勉強に励む良い子

くまが以前教務部長をしていた予備校は大学受験部・高校部に併設で中学受験と高校受験のコースもありました。4階建ての校舎に高校受験コースのメイン教室があったのですが、その階段の壁がボロボロになっていました。

なんでだろう?

そう思って、1週間観察をしていました。すると、高校受験コースの中学生の一部の子が、授業が終わって帰りしなに、階段のところの壁を殴ったり、蹴ったりしているのです。顔を覚えておいて、高校受験部の先生に「こういう子がいると思うけど、どんな子かな?」と聞いてみました。すると

ああ、勉強熱心で成績もよい良い子ですよ。
まじめで、一生懸命で、礼儀正しいですしね。

と、いう答えが返ってきました。

気になったのでその次の週も観察していました。するとやはり先週見たのと同じ子たちが、壁を蹴っていました。そこでまた、高校受験部の先生に「こういう子もいると思うけど、どんな子?」と聞いてみました。すると、先生は笑顔で

ああ、先生から見てもわかりますか。
あの子たちはみんな揃ってまじめで、よく勉強している良い子たちですよ。

と言っていました。そこで、次の週、また観察していると同じ子たちがやはり壁を蹴ったり、殴ったりしています。そこで今度はそっと近づいて

そんなに壁を蹴ったり殴ったりして痛くないのかい?

と声を掛けました。すると生徒たちは「まずい」という顔をしていましたが、その中の一人がきまり悪そうに「ちょっと痛いです」と言いました。

そりゃ、そうだろうな。壁固いもんな。怪我してないか?

と聞いてみました。すると3人とも首を振っています。

親御さんにはちょっと遅くなると先生から言っておいてあげるから、ちょっと3人とも付き合いなさい。

そういって、講師室の隣にあるくまの個室(教務部長室)に招き入れました。そして、聞いてみました。

自分も痛いのになんで壁を蹴ったり、殴ったりしていたんだい?
壁がへこむくらいだからよほど力で、何度もやっていただろ?


だって当たるところがないから

みんな黙っています。だから

先生は怒っていないし、責めてもいない。ただ、どうして週に5日、毎回同じことをしているのかが気になっているだけなんだ。

と言いました。すると一人の生徒が

だって、他に当たれる所がないから……

そう言うとうつむいてしまいました。よく見ると他の二人は泣くのを我慢しているかのようでした。

そっか、毎日辛いか?

くまがそう言うと、3人とも泣きながら頷いていました。そこから堰を切ったように一人が

毎日学校でも、塾でも、家でも勉強して、それが小学校からずっと続いていている。
言われたとおりにしていたら周りの大人から「まじめ」だの「頑張ればもっとできる」だの「良い子」だの
勝手に理想像を押し付けられる。

そう半ば泣き叫ぶように語り始めました。他の二人も同じ気持ちのようでした。

そうか、よく頑張ったな。
もういっぱいいっぱいなんだな。
明日普通に塾に来て、授業に出ないでそのままこの部屋に来なさい。
悪いようにはしないから。

そう言って、くまは3人にジュースを飲ませて返しました。

成績の良い、まじめな、良い子は本当はここまで追い詰められていたのです。


翌日の話

翌日3人そろって、くまの所にやって来ました。
そして、思っていること、我慢していること、本当はどうしたいかなど、6時間くらいかけて話を聞きました。

一通り話が出尽くしたところで、くまは聞きました。

みんな高校には行きたいんだよな?

3人ともそれはすぐに頷いていました。

だったら頑張れ。
でも「今日は無理」と思ったら、授業に出ないで先生の所に来なさい。
お菓子とジュースくらい用意しておいてあげるから。
人生について考えたり、話したりするのも立派な勉強なんだ。
そういう勉強の日があってもいいじゃないか。

そうくまは話しました。

結局彼らは何回か授業の後にくまの所に遊びに来ました。
そして3月に見事志望校に合格。
4月からは高校部でくまの授業をとって、さらにその3年後、全員第一志望の大学に合格しました。


再び「勉強しなさい」

良い子・悪い子・普通の子

昔そういう3人組が歌を歌っていましたが(ついでに言うとその3人とくまの恩師は一緒に歌ってレコードを出していました)、それとは関係ありません。

「勉強しなさい」と言われる子はたいてい「悪い子」か「普通の子」です。

でも、これは安心なのです。「悪い子」も「普通の子」もうまく手を抜いているから、余裕があるのです。でも、本当に気を付けないといけないのは「良い子」です。

「良い子」は「勉強しなさい」とはほとんど言われません。

そして、我慢し、色々な思いをため込んで、自分を追い詰めていってしまうのです。10代半ばや後半の子供たちが、大人以上に自分を追い詰めているのです。もちろん、そうでない「良い子」もいるでしょう。実際くまもそういう「我慢しない良い子」たちを多く知っています。でも、比率的には「自分を追い詰めている良い子」の方が多いと思います。


「勉強しなさい」と言っていますか?

親御さんにお聞きします。
お子さんに「勉強しなさい」と言っていますか?
それなら今は大丈夫です。

言う必要がないですか?
それはもしかすると危険信号です。
今回の話に出てきた3人の生徒は、特別な子たちではありませんでした。
実際、毎年、そういう子たちのケアをしてきたのでくまにはよくわかります。

教育というのは「教える」ことと「育てる」ことです。
たしかに高校受験、大学受験のレベルになると親が教えるのも難しくなります。
でも「育てる」方なら大丈夫なはずです。

難しいことではありません。

「今日学校でどうだった?」
「将来どんなことをしたい?」
「塾はどうだ?」
「最近何か楽しいことはあったか?」

などなど、日常の当たり前の会話を意識して絶やさないでください。そして、どんなくだらない話でもしっかりと聞いてあげてください。それだけでも立派な教育なのですから。